そもそも、eMAXIS Slim先進国株の信託報酬は税抜0.1095%です。
設定時は0.2%でしたが、2017年10月2日に0.19%、11月10日に0.189%、2018年1月30日に0.1095%に値下げしています。
これらの値下げは、全て他社ファンドに対抗したものです。
●0.19%の値下げはiFree外国株に対抗したもの
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-582.html#more●0.189%の値下げはニッセイ外国株に対抗したもの
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-634.html●0.1095%の値下げはEXE‐iつみたて先進国株に対抗したもの
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-716.htmlおそらくeMAXISシリーズは、超低コスト戦争に参加して信託報酬を値下げしたくはなかったはずです。
しかし、ニッセイ、
たわら、iFreeといった新興勢力によって超低コスト
インデックスファンドが次々にリリースされたことで、かつての低コストファンドの覇者だったSMTシリーズやeMAXISシリーズは急速に魅力を失ってしまいました。
そこで、eMAXISシリーズは、「どうせ他社の超低コストファンドに顧客を奪われるくらいなら、自社に取り込もう」と考えたのだろうと思われます。
他社に顧客を取られてしまえば自社は1円も儲かりませんし、流出した分だけ損が膨らみます。
他方で、自社に取り込むことに成功すれば僅かとはいえ信託報酬が手に入ります。
ここでの問題はeMAXISシリーズからSlimシリーズに顧客が流れてしまうことですが、そのような顧客は早晩、他社の超低コストファンドに流れてしまうでしょうから、Slimシリーズを設定しようがしまいがeMAXISシリーズから顧客が流出するという事態を防ぐことはできません。
しかし、Slimシリーズを設定すれば、「本来であれば他社の超低コストファンドに流出したはずの顧客」を自社ファンドにつなぎとめることができます。
eMAXISシリーズは、このような思惑のもと、Slimシリーズを立ち上げたのでしょう。
そして、重要なポイントは、既に巨額のマザーファンドが存在し、そのマザーファンドを買うだけの
インデックスファンドに必要な手間とコストは、ベビーファンド自体の純資産額が多くても少なくてもそれほど変わらないということです。
ベビーファンドのファンドマネージャーがやる仕事は、マザーファンドに注文を出すことです。
注文額が100万円でも1000万円でも1億円でも10億円でも100億円でもやることは変わりません。ゼロをいくつか多く打ち込むだけです。
マザーファンドの人的資源(ファンドマネージャー等)や物的資源(事務スペース、什器備品等)を利用すれば、マザーファンドを買うだけファンドのコストはほぼゼロに等しくなります。
つまり、マザーファンドを買うだけファンドは売れば売るほど儲かるわけです。
これを利用して超低コスト戦争に参戦したのが
たわら先進国株でした。
たわら先進国株は、巨額のDCファンドで構成されたマザーファンドを買うだけファンドです。
たわら先進国株の運用会社の顧客の大半は法人ですので、個人客向けの超低コスト
インデックスファンドを新設しても自社の顧客が流れるリスクはなく、
たわら先進国株は、信託報酬が低額でも売れば売るほど儲かるという構造にあります。
これに対し、個人客を対象とするeMAXISシリーズは、Slim化によって自社の顧客が流出するというリスクはあるものの、それらの顧客はSlim化しなければ他社の超低コストファンドに流れるだけですので、やはり信託報酬が低額でも売れば売るほど儲かる(少なくとも他社の超低コストファンドに顧客を奪われずに済む)という構造にあります。
そして、
インデックスファンドで純資産額を増やすには、他社の
インデックスファンドと差別化して顧客を呼び込む必要があります。
しかし、アクティブファンドと異なり、
インデックスファンドは同じ指数に連動することを目的としており、コスト分を超えるの指数との乖離はないことが当然の前提となっていますので、投資対象やリターンで他社ファンドと差別化することはできません。
インデックスファンドにとっては、信託報酬の安さによって他社ファンドと差別化するしか方法がないことから、ニッセイシリーズは「徹底的にコストにこだわらないとダメなんです」というキャッチフレーズを旗印にするという戦略で業界ナンバーワンまでシェアを伸ばしました。
ひるがえってSlimシリーズは、いまさら同じキャッチフレーズを用いてもニッセイシリーズには勝てないことから(ニッセイシリーズには、超低コストであることを重要な選考基準とする顧客を既に囲っているという先行者利益があるからです)、「業界最低水準の運用コストを将来にわたってめざし続けるファンドシリーズ」というキャッチフレーズを旗印にしました。
しかし、このキャッチフレーズは「他社が値下げしなければSlimも値下げしない」という同率1位作戦を表明しただけであるという意味にも取れます。
そのため、業界最安値の道を自ら切り開いた実績のあるニッセイシリーズから顧客を奪うまでの効果はなく、かえってそのセコさが嫌われるという逆風をSlimシリーズにもたらしました。
Slimシリーズに対する逆風の節目が変わる最初のきっかけはeMAXIS Slimバランスの設定であり、第2のきっかけはeMAXIS Slim新興国株の0.19%への異次元の値下げであり、第3のきっかけはeMAXIS Slim先進国株の0.1095%の異次元の値下げでした。
このように、eMAXISシリーズは、低コストファンドに依存しない巨額のマザーファンドがあるという環境を前提として、超低コストファンドをSlimという別シリーズで出すことによって信託報酬を幾ら下げても売れば売るほど儲かるという構造を作った上で、信託報酬の異次元の値下げを断行し、コストに厳しいネット証券を利用する顧客の心をつかむことに成功しました。
これに対し、ニッセイ外国株は、ベビーファンドであるニッセイ外国株がマザーファンドの大きな割合を占めており、ニッセイ外国株の成長とともにマザーファンドも成長するという構造にあります。
そのため、ニッセイ外国株の信託報酬を下げると、ニッセイの儲けが減るだけでなく、マザーファンドの人的物的資源を維持することが難しくなります。
ニッセイ外国株の信託報酬の値下げの歴史です。
2015年11月21日 0.39%→0.24%
2016年11月22日 0.24%→0.2%
2017年11月21日 0.2%→0.189%
信託報酬が0.39%の時代のニッセイの報酬は0.17%でした。
いまのニッセイの報酬は0.08%です。
純資産額は189億9700万円から787億1800万円に激増しています。
ニッセイの報酬も3229万4900円から6377万4400円に増えていますが、純資産額が4.14倍になったのに報酬は1.97倍になったにすぎません。
もしニッセイ外国株がeMAXIS Slim先進国株に対抗値下げすると、eMAXIS Slim先進国株の報酬は0.04475%ですから、ニッセイの報酬は3522万6305円となり、信託報酬0.39%の時代とほぼ同額にまで激減します。
つまり、ニッセイ外国株は、信託報酬が低額でも売れば売るほど儲かるという構造にないことから、低コスト化には限界があります。
このように、超低コストファンドといっても、マザーファンドの主力を占めるのかどうかによって、気軽に値下げできるかどうかが違ってきます。
超低コスト戦争の結果がどうあれ、eMAXIS Slimシリーズにはさしたる影響はないでしょうが、ニッセイシリーズには非常に深刻な影響が及ぶ可能性があるでしょう。
しかし、ニッセイシリーズは、コストの安さを看板にしてしまったことから、そこに楽園はないと知りつつも、このまま超低コスト化を突き進むしか道はないのです。
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