他人のブログに勝手にアドバイスするシリーズ(3) 早期退職と年金免除、確定拠出年金

アーリーリタイアをすると、配当金や利息金は分離課税ですので、国民健康保険はゼロ申告(税務署に確定申告書を郵送するのが簡便)をすれば法定減額されて3割で済み、国民年金は免除申請すれば全額免除されます(免除申請は、幾ら資産があっても関係なく、前年所得だけを基準に機械的に判断されますので、ゼロ申告をしていれば必ず免除されます)。

ところで、安房さんというブロガーが、国民年金を全額払った上で確定拠出年金にも加入すべきだと述べられています。
http://anbowasset.blog.fc2.com/blog-entry-155.html

この点、多額の資産があるのに免除申請するなんてけしからんという道徳論は失当です。なぜなら、多額の資産を形成した人は、その過程で、普通の人が一生かかって納めるであろう税金の何倍もの税金を既に納めているからです。

安房さんの主張も道徳論ではなく、たとえ無収入でも、国民年金を満額支払った上で更に確定拠出年金も上限まで支払った方が資産運用として優れているという点にありますので、本当に得なのかを検討してみます。

※1 この記事は、結論として安房さんとは逆の意見を述べていますが、安房さんをどうこうという趣旨ではありません。気分を悪くしたらごめんなさい。

※2 初稿脱稿後、改めて読み返したところ、国民年金の支給開始年齢は60歳ではなく65歳であること、確定拠出年金の手数料の2004円は月額ではなく年額であることに気付きました。
そこで、それにあわせて本文を訂正しました。

広告

1 国民年金について
(1)事例を単純化するため、20歳で国民年金に加入して掛金を満額納め続け、40歳でアーリーリタイアして60歳まで全額免除を受け、85歳で死んだケースで考えます。

(2)この場合、40歳から60歳までは、全額免除によって掛金を半額支払ったものとみなされますので、20歳から60歳まで自力で全額支払った人(以下「満額支払者」といいます)の受給額を100とすると、受給額は75(20歳から40歳までが50、40歳から60歳までが50の半額の25)となります。

(3)全額免除者が65歳になったとき、現在の基準額で仮に計算すると、満額は78万100円ですので、受給額は58万5075円(78万100円×75%)となります。満額支払者との差額は年19万5025円(毎月1万6252円)です。

(4)満額支払者が85歳まで生きると、全額免除者と比較し、受給額は総額で390万500円(19万5025円×20年)だけ増えます。
これに対し、満額支払者が40歳から60歳までに支払った掛金の総額は377万3100円(2年前納時の37万7310円×10回)です。
したがって、満額支払者は、85歳まで生きて、ようやく12万7400円だけ得をするという結果になります(84歳で死ぬと、増えた受給額の総額は370万5475円ですので、掛金総額を下回り、損します)。

(5)結論
以上を整理すると、国民年金はこのような金融商品となります。

ア 40歳から60歳まで毎月1万5721円(2年前納金÷24か月)を支払う。
イ 65歳から85歳までの20年間は、上記アの元金合計額の返金を毎年20分の1ずつ受ける。84歳までに死んだら元金割れをする。
ウ 85歳の年は毎月1万616円、86歳から死ぬまでの間は毎年1万6252円がそれぞれ支給される。

うーん、どうなんだろう。
私は全く魅力を感じません。
しかも、少子高齢化が益々進む未来において、年金の支給額が減らされたり、支給時期も70歳に後ズレする危険性はそれなりに高いでしょうし(国民年金の支給開始年齢はずっと65歳ですが、厚生年金の支給開始年齢は55歳から60歳、そして65歳に徐々に引き上げられています)、一定額以上の資産保有者には年金は支給しないことになるかもしれません。

2 確定拠出年金について
(1)国民年金全額免除できる人はした方が得だという結論を得た以上、満額支払者しか参加できない確定拠出年金について分析する必要はないのですが、念のため、検討してみます。

(2)確定拠出年金の掛金の上限は月額6万8000円です。そこで、事例を単純化するため、40歳から60歳まで月額6万8000円の確定拠出年金を掛け続け、60歳でその全額を一時金として受け取ったケースで考えます。

(3)退職金(一時金)の総額がいくらになるかは20年間の運用成績次第ですので、事例を単純化するため、まずは元金だけで考えます。そうすると、20年分の元金は1632万円です。
退職金控除額は800万円(40万円×20年)ですので、課税所得は416万円(1632万円-800万円の2分の1)となり、所得税は40万4500円(416万円×20%-42万7500円)、住民税は41万6000円、合計で82万500円となります(厳密には復興所得税が更に掛かりますが、20年後には復興しているでしょう。東海地震が来ないことを祈っています)。

つまり、運用益がゼロ円でも、税金分の82万500円が元金割れとなります(実際は維持管理手数料が別途掛かります。もっとも低額なSBI証券で年額2004円ですから、その20年分は4万80円となり、更に損が拡大します)。

(4)いやいや運用益が出たら得するのではないかと思う人がいるかもしれません。
しかし、運用益が出たら、運用益の1円から279万円までは30%(所得税20%+住民税10%)の税金が掛かり、それ以降は金額に応じて33%、43%、50%、55%というように超過累進課税の対象となります(正確には、退職金収入のうち課税所得となるのはその2分の1ですので、実質的な税率は上記の半額、すなわち、15%、16.5%、21.5%、25%、27.5%になります)。

これに対し、特定口座源泉徴収ありにしておけば、幾ら運用益が出ようと一律20%です。

この点、期待リターン5%で20年間、毎月6万8000円ずつ積立てをすると、理論上は1138万円の含み益が出ます。
http://guide.fund-no-umi.com/tools/comp.html
(出典は「ファンドの海」)

元金1632万円、含み益1138万円、合計2770万円とすると、

ア 確定拠出年金
・ 課税所得 985万円(2770万円-800万円の2分の1)
・ 所得税 171万4500円(985万円×33%-153万6000円)
・ 住民税 98万5000円
・ 手数料 4万0080円
・ 合計 273万9580円

イ 特定口座源泉徴収あり
・ 源泉税 227万6000円(1138万円×20%)

となり、やはり確定拠出年金の方が損する結果となります。

(5)結論
確定拠出年金に加入すると損します。

ちなみに、確定拠出年金に入って得をする理由は、現役時代の給与所得等から掛金全額が控除されるからです。つまり、現役時代に払わなかった所得税・住民税を60歳になった時点で後払いする制度なわけですね。
しかも、後払いする際は、第1に多額の退職金控除がなされ、第2に課税所得は退職金控除後の金額の2分の1に優遇されます。


というわけで、安房さんは好きなブロガーの1人で、いつも興味深くブログを拝見させていただいているのですが、今回の記事は残念ながらミスリードかなという結論になりました。

もっとも、余剰資産の全額をリスク資産に投下すべきではなく、ある程度は無リスク資産として確保しなければならないとの点には私も賛成です。ただ、私は、確保すべき無リスク資産は国民年金ではなく、個人向け国債等にすべきであると考えます。

なお、私は数字に強くありませんし、税理士でもありませんので、上記の分析が間違っている可能性があります。その際はコメント等でお知らせいただけると嬉しいです。もしその結果安房さんが正しかったらごめんなさい。あらかじめお詫びしておきます。



広告

コメント

たわら男さんへ勝手にアドバイス

通りすがりなのにごめんなさい。
今回の勝手にアドバイス、的をはずしている気がします。
年金は事前にわからない死亡年齢を設定して計算で損得を計れるものでは無いと思いますよ。
安房さんの、『現金預金を「現在の無リスク資産」、年金を「将来の無リスク資産」、有価証券等を「リスク資産」と捉えて、そのアロケーションを考えるべき』は大賛成です。
今回は収入は無いが資金は十分にあるというケースですから、国民年金全額納付はまっとうなアドバイスだと思います。
確定拠出年金についても
たしかに自営業者は月額68000円の掛金が可能ですが、なにも20年間全額拠出する必要はありません。
退職金控除額に収まるように掛け金を途中で減額するなりすれば良いだけのことです。
投資信託に1年間で200万円とか500万円積み立てということなので、確定拠出年金と、さらにNISAの利用も考えてというアドバイスですよね。

安房さんの記事の最後の部分
『無リスク資産とリスク資産の配分、そして課税口座・非課税口座によるアセットロケーションは資産運用の第一歩です。〜中略〜現状の資産の棚卸しや年金制度、資産運用にまつわる諸制度など、全体を見渡して見落としのないように判断したいものです。』
まさにその通りだと思います。私にはミスリードとは思えません。

No title

コメントありがとうございます。

ただ、
1、国民年金は、全額免除と比べると79歳までに死亡すると損するわけですから、やはり割に合わない投資だと思います。
しかも、その賭けに勝ち、80歳より長生きしたところで、月額1万6252円増えるだけのことですから、その金がなくても大勢に影響はないでしょうし。
私が危惧しているのは、現行の年金制度がそのまま維持される可能性は極めて低く、高い確率で支給年齢が引き上げられ、支給額が減額されるであろうということです。
その場合、現役世代であれば、掛金は所得控除されることから多少の慰めになりますが、引退後の私には単なる払い損になってしまうのが悲しいところです。

2 確定拠出年金についても、たとえ掛金を減らして退職金控除の範囲内に調整したとしても、48万円の手数料を負担しなければなりません。
退職金控除額は1年あたり40万円(1か月あたり3万3333円)ですから、毎月2004円の手数料はその6%にあたります。
ノーロードインデックス投資家である我々が購入手数料6%のファンドを買うわけにはいかないですよね。

本文でも指摘しましたが、年金制度は、所得税・住民税の支払猶予を受けただけのことで、受給時には支払わなければなりません。
掛金支払時に税務上の優遇措置を全く受けることができない無収入者の場合は、受給時の負担が非常に重くなります。

というわけで、ご指摘を受けて再考しましたが、結論は変わりませんでした。

No title

朝起きて調べたところ、どうやら2004円の手数料は、月ではなく年単位だったようです。
それに合わせて本文を訂正しましたが、やはり余り得な感じはしませんでした。

No title

さらに訂正です。

国民年金の支給開始年齢は、60歳ではなく65歳でした。
そうすると、85歳以上生きないと損することになります。

それに合わせて本文を訂正しましたが、わたくし85歳まで生きる気が全然しません。

アドバイスその2

ご苦労様です。

アドバイス記事だということですからその内容が有益かどうかということです。
自分の分かっている範囲だけを勝手に自分のケースに置き換えて数字をはじいていませんか?
失礼ですが、安房さんの記事の下記の内容を理解できていますか?
『確定拠出年金と課税口座と両方で運用することになった場合、課税口座で配当金・普通分配金の受取があったり、リバランスや利益確定により売却益が発生してしまう事も考えられますが、国民年金保険料の納付及び確定拠出年金の拠出があれば、所得控除により税額を減らすことができます(所得控除は基本的には総合課税の所得にぶつけることになりますが、総合課税の所得が十分にない場合には分離課税の所得にぶつけることができます)。』
事業所得の無い今回のケースに限りですが、確定拠出年金と国民年金の掛け金分を、課税口座の運用益の節税に使えそうなんです。
一般口座内に運用益がある場合所得控除分毎年利益確定なり、リバランスしながら運用を続ければかなり有利となりますよね。

『よくよく現状の資産の棚卸しや年金制度、資産運用にまつわる諸制度など、全体を見渡して見落としのないように判断したいものです。』
ともありますね。よくわかった方だなと思います。
考え方が合理的かどうかだと思います。
個々の運用だけにとらわれず資産全体で有利となるような運用を心がけて、使える制度を見落とさないように。
85歳以上生きるリスクも取る必要もありません。
ミスリードなんかじゃなくて有益な記事になっていると思います。

ちなみに私は安房さんという方とは全く関係ありませんよ〜。
あと、ぜひ長生きしてください(笑)

No title

重ねてのコメントありがとうございます。

私も、まさにご指摘の部分が気になっていました。
端的に言えば、2つの点で間違っているからです。結論に関係ない部分ですので、あえて本文では触れずに流そうと思いましたが、コメントで指摘されてしまったので書きます。
なお、この部分は非常に実務的で難しい部分ですので、安房さんが間違えても仕方ないかもしれません。

特定口座源泉徴収ありで譲渡益なり配当益が出たときに、我々は、確定申告するかしないかを選択することができます。
確定申告すると総合課税になります。
給与所得や事業所得と合算して課税所得となり、年金の掛金の所得控除もできます。

ここまでは正しい。

しかし、確定申告をすると、所得税や住民税は減りますが、国民健康保険の掛金が劇的に増えます。
しかも、国民健康保険の所得割は、各種所得控除をする前の所得で算定されますので、幾ら年金掛金を払おうが国保の掛金は安くなりません。

そして、分離課税の所得にぶつけられるという点も間違いです。
ぶつけられないからこそ「分離」課税なわけです。
この点について、ネットで検索すると、できるという意見が複数あります(ただし、いずれも論拠は明記されていません)。そのため、私も疑問に思い、かつて顧問税理士と税務署に確認したことがありますが、いずれも無理に決まっているということでした。

したがって、年金の掛金を特定口座の源泉税の節税に利用することはできません(正確には、確定申告をして総合課税にすれば源泉税は還付されますが、国保の掛金が跳ね上がり、全体として損する可能性が極めて高くなります)。

ああ

めんどくさいので最後にします。
何度もすみませんです。

この方自営業ですから確定申告です。総合課税を選択することに何の問題もありません。国保の掛け金が跳ね上がると心配されていますが、事業所得ゼロですよ〜。
劇的に掛け金が上がるラインがどのあたりか確認してみてください。

詳しい専門家の知り合いがおられるならこのケースについて意見をもらってみてください。
年金は全額納付すべしと言われると思いますよ。

No title

コメントの応答を踏まえ、新たな記事を書きました。
上記のコメントは全て撤回しますので、新たな記事をご覧ください。
非公開コメント

広告

プロフィール

たわら男爵

Author:たわら男爵
Painter:ますい画伯
http://www.masuitousi.com/

ブログ開始日 2016年3月1日

●リスク資産(6割)は「たわら先進国株」(楽天証券)とVT(SBI証券)をほぼ50:50でホールド中。
●つみたてNISA(SBI証券)では「たわら先進国株」を年初一括40万円購入。
●楽天カード投資(毎月1日)では「たわら先進国株」を毎月5万円購入(+特定口座で11日と21日に各5万円ずつ積立買付中)。
●SBI証券で「インデックスマラソン」の毎営業日100円投資を実行中。

●無リスク資産(4割)は、個人向け国債変動10(みずほ証券、SMBC日興証券)と楽天銀行(金利0.1%)。

パソコン版右端の「ブログ記事検索」と「カテゴリ」が便利です。

●「誰でもできる超簡単ほったらかし投資」(カテゴリ「【公開】誰でもできる究極の投資」)はこのブログの全エッセンスを1記事に凝縮したものです。
●カテゴリ「この投資信託がすごい」では、ベストバイファンドの具体名を明示しています。
●カテゴリ「インデックスファンドの基礎知識」を読めば、誰でも簡単に投資信託の必須知識を得ることができます。

新着記事通知用のツイッターアカウントはこちら。
https://twitter.com/tawaradanshaku

インデックス投資家必読の書

ブログ記事検索

他の投信ブログはこちら

管理