まず、eMAXIS Slim新興国株の対抗値下げの実績を見てみます。
2017.7.31 iFree新興国株(税抜0.34%)に対抗し、同額で新規設定
→ライバルの新規設定は2016年9月8日、新規設定の発表は2017年7月14日
→iFree新興国株はスマートベータ指数に連動するもの
2017.11.10 ニッセイ新興国株(税抜0.339%)に対抗し、同額に引き下げ
→ライバルの発表は9月27日、対抗値下げの発表は11月6日
2017.12.13 EXE‐iつみたて新興国株(税込0.198%)に対抗し、税抜0.19%に引き下げ
→ライバルの発表は11月17日、対抗値下げの発表は11月22日
→EXE‐iつみたて新興国株はFTSEエマージング指数に連動するもの(FTSE社は韓国を先進国に分類しているため、韓国は含まない)
このように、eMAXIS Slim新興国株は、スマートベータ指数であっても、韓国という新興国の主要国を含まない指数であっても、対抗値下げの対象としてきました。
本題です。
今回の「EXE‐iつみたて先進国株式ファンド」の投資対象の米国ETFは、「EXE‐i つみたてグローバル(中小型含む)株式ファンド」の投資対象の3本の米国ETF(米国株ETF、先進国株ETF、新興国株ETF)から新興国株ETFを除いたものです。
すなわち、EXE‐iつみたて先進国株とeMAXIS Slim先進国株との違いは、
(1)韓国を含む
(2)日本を含む
(3)小型株を含む
という3点になります。
私は、eMAXIS Slim新興国株がスマートベータ指数にも対抗したという実績がある以上、上記3点の相違は対抗値下げをしない理由にはならないと考えますし、多くの顧客もきっとそのように考えることでしょう。
そうすると、もしeMAXIS Slim先進国株が対抗値下げをしないと、eMAXIS Slim新興国株が0.19%に対抗値下げしたことによって得られた輝かしいブランド価値が大きく色あせてしまうことになります。
問題は、eMAXIS Slim先進国株が対抗値下げして運用会社は利益になるのかどうかです。
今回、SBIアセットマネジメントは、「ここまで値下げした以上、三菱国際UFJ
投信は対抗値下げを断念するはずだ」と考えていると思われます。
eMAXIS Slim先進国株の信託報酬は税抜0.189%で、このうち運営会社の取り分は0.0845%です。
もし0.11%に対抗値下げすると、運営会社の取り分は0.045%となります。
eMAXIS Slim先進国株の純資産額は28億7200万円ですから、もし対抗値下げすると、運営会社の取り分は年242万6840円から129万2400円に減ります。
この差は113万4440円にすぎません。
そのため、今回、もし0.11%に対抗値下げをすると、三菱国際UFJ
投信は、わずか113万4440円のコストで絶大な宣伝効果を獲得することができます。なぜなら、自前のマザーファンドを用意するのではなく、米国ETFを買うだけファンドで超低コストを実現してもズルいことから、同率1位作戦を実行しても非難されることはなく、むしろ「よく同率まで値下げした」と称賛されるからです。
三菱国際UFJ
投信が
インデックスファンドの絶対的覇者となる未来が目に浮かびます。
これに対し、先進国株
インデックスファンドの現在の覇者であるニッセイ外国株は対応に苦慮していることでしょう。
ニッセイ外国株の信託報酬は0.189%で、このうち運営会社の取り分は0.089%です。
もし0.11%に対抗値下げし、運営会社の取り分を0.045%とすると、現在の純資産額は746億9300万円ですから、運営会社の取り分は年6647万6770円から3361万1850円に減ります。
この差は3286万4920円です。
このように、eMAXIS Slim先進国株にとっては、今回の件は、極めて軽微なコストを払って絶大なブランド価値を手に入れる絶好の機会です。
これに対し、既にナンバーワン先進国株
インデックスファンドの地位を確立しているニッセイ外国株にとっては、値下げは単純に余計なコストとして重くのしかかります。かといって、何らかの対応策に出なければ、度重なる対抗値下げの実績という1点によって、運用ミスがあってもなお
投信ブロガーの絶大な支持を得てナンバーワン先進国株
インデックスファンドの地位を確立したという前提が崩壊してしまいます。
行くも地獄、退くも地獄。
なまじ巨大な純資産額を集めてしまったことで、このような進退両難の難しい立場に身を置かざるを得なくなってしまいました。
EXE‐iつみたて先進国株式ファンドは、eMAXIS Slim先進国株が対抗値下げをしないとの見込みでいるはずですが、今回のニュースに接した三菱国際UFJ
投信の担当者は狂喜したはずです。
なぜなら、前述したとおり、三菱国際UFJ
投信にとって値下げに伴うコストは極めて軽微であるのに、今回の対抗値下げによって
インデックスファンドの覇者たる地位を確立する未来が見えるからです。
これに対し、ニッセイアセットマネジメントは、主力商品のニッセイ外国株が一気に陳腐化する重大なリスクにさらされてしまいました。
担当者は無事に仕事納めをすることができるのでしょうか。
最後に、eMAXIS Slim先進国株が対抗値下げに踏み切ったとき、販売会社がついてくるかが問題となります。
しかし、SBI証券が低コストを理由にこれを拒否することはできません。なぜなら、EXE‐iつみたて先進国株式ファンドの販売会社の報酬は0.03%ですが、値下げ後のeMAXIS Slim先進国株の販売会社の報酬は0.045%であり、EXE‐iつみたて先進国株式ファンドの1.5倍だからです。
そして、SBI証券が取り扱う見込みである以上、楽天証券などの他社も取り扱わざるを得ません。
また、楽天バンガードファンドシリーズの販売会社の報酬は0.05%であり、値下げ後のeMAXIS Slim先進国株の0.045%と大差ありませんので、楽天バンガードファンドを取り扱う証券会社は簡単に値下げを受け入れるでしょう。
まとめです。
eMAXIS Slim先進国株は、今回の件を自らのブランド価値を最大に高める絶好の機会であると捉え、むしろ積極的に対抗値下げに動くでしょう。
これに対し、ニッセイ外国株をはじめとする他社は、これまで積み上げた自身の純資産額が足かせとなり、簡単に対抗値下げに踏み切ることはできないでしょう。おそらくニッセイ外国株は、例年10月ころに値下げをしていることから、2018年10月まで動かないと予想されます。
ニッセイ外国株をはじめとする他社が動かない間に、いち早く対抗値下げに踏み切ったeMAXIS Slim先進国株が人気を独占することになりそうです。
コメント
No title
私はこちら⇒b--n.net
でブログをやっているさくらといいます。
色々なブログをみて勉強させていただいています。
もしよろしかったら相互リンクをお願いできないでしょうか?
「やってもいいよ」という方はコメントを返してくだされば、
私もリンクさせていただきます。
よろしくお願いします^^
2017/12/26 21:48 by さくら URL 編集
No title
2017/12/26 21:50 by URL 編集
No title
>色々なブログをみて勉強させていただいています。もしよろしかったら相互リンクをお願いできないでしょうか?
せっかくお声がけいただきましたが、リンク先は当ブログのテーマと一致するブログに限定させていただいております。
貴ブログの今後のご発展を祈念しております。
>つみたてNISAでは野村つみたて外国株投信を推奨されていたと思います。その方針は変更されますか。
これから検討し、次回の記事にする予定です。それまでお待ちください。
2017/12/26 21:58 by たわら男爵 URL 編集
No title
自身の報酬より付与ポイントのほうがでかくなるため、取り扱うだけで赤字確定。楽天バンガードシリーズはギリギリ利益が出ますが。
SBIは付与ポイントを0にするってことで行けるとは思います。
が、そこまでしてSBIが値下げに賛同するかは疑問です。対抗馬なわけですし。
2017/12/26 23:32 by URL 編集
No title
ふと思ったのですが、eMAXIS Slim新興国株は
EXE‐iつみたて新興国株に対抗したのではなく野村つみたて外国株投信に追従して値下げしたのではないでしょうか?
信託報酬を見る限り、そう考えた方がしっくりくるような、、。
よって先進国株は値下げしない気がしますが。
2017/12/26 23:32 by 権左衛門 URL 編集
No title
>付与ポイントのことを考えたら楽天は、値下げに反対する気がします。
私は、楽天証券は、投信付与ポイントをゼロにしてイーマクシススリム先進国株の値下げを受け入れると見ています。
もし楽天証券が拒否したら、楽天バンガードファンドを受け入れている他社から重大な反発を受けますので、政策的に無理でしょう。
>eMAXIS Slim新興国株はEXE‐iつみたて新興国株に対抗したのではなく野村つみたて外国株投信に追従して値下げしたのではないでしょうか?
野村つみたて外国株投信の新興国株部分は12%にすぎませんので、対抗値下げの対象とはいえないと考えます。
>先進国株は値下げしない気がします
値下げするかどうかは三菱国際UFJ投信しか分かりませんが、私が担当者であれば、公式サイトに新春の挨拶をアップして低コストに対する熱い思いを語り、その実績として新興国株と先進国株の対抗値下げに触れるという方法をとります。
サプライズのお年玉として、効果抜群です。
2017/12/27 01:25 by たわら男爵 URL 編集
なるほど
適正な競争は大歓迎です。でもコストを下げすぎて数年後にやっぱり運用できなくなりましたとはならないで欲しいものです。
2017/12/29 22:22 by 河童 URL 編集
No title
>適正な競争は大歓迎です。でもコストを下げすぎて数年後にやっぱり運用できなくなりましたとはならないで欲しいものです。
マザーファンドを買うだけですし、ファンドマネージャーはマザーファンドのファンドマネージャーが兼務していると思われますので(たわらは兼務しています)、経費はほぼゼロのはずです。
ただ、VTのインデックスファンドのVTWSXの信託報酬が0.17%であることからすると、0.1095%は低廉に過ぎる気がします。
2017/12/29 22:39 by たわら男爵 URL 編集