出典は、 ENGINE 2014年4月号特別付録DVD「
水野和敏 ガイシャを語り尽くす。」です。
参考キーワードは「ENGINE Imported New Cars Test Drive 2014」。
メルセデスのSって言うと、皆さんすぐお金持ちの高い車だと言うけど、技術的に見るともの凄く良い空力の教材。
フロントグリルとボンネットとの境目に手を当てると、フロントグリルが上に出ている。ここまで気を使っている。フロントグリルよりボンネットを高くすると、その部分に渦ができる。音も出るし、渦がフロントガラスまで飛んでいく。それだけで最高速度が3キロくらい違う。フロントグリルとボンネットとの境目の隙間はチリがあっていないのではなく、わざと隙間を作ってフロントグリルの段差も高くしてちょっとボンネットを隠す。これが空力。
フロントバンパーにアプローチを作って横に行く風を作る。そして、フロントタイヤとフロントフェンダーを完璧に面一にする。ほかの車はフェンダーがもっと出て中に空気を巻き込んでしまっている。ベンツは面一なのでそういうことはなく、前から来た風がフロントタイヤの横をすっと流れて、エンジンルームの中の空気も一緒に吸い出す。フロントタイヤの後ろにも負圧を作っているので、ここでまた空気を吸い出す。フロントタイヤだけでも2つの空力のポイントを作っている。
ボンネットの横から来た風と上から来た風が衝突しないように、フロントホイール上部で棚を作って空気の流れをきれいに分けて、空気の流れを上と下とで分けている。これはもの凄い空力の教科書。
ドイツの法律でタイヤはホイールから飛び出してはいけないものとされているので、そのギリギリまで攻めてタイヤを外に出し、側面空力をやっている。
ベンツは空力を凄いやっているので、時速230キロでも片手で乗ることができる。日本でも台風の中を片手で走ってもストレスなく、修正が要らないのがベンツ。それはCクラスもEクラスもSクラスも同じ。ベンツはデザインが同じに見えるが、それは空力を考えているから、その結果として同じデザインになる。
リアタイヤを見ても、側面をきちんと作って空気を吸い出すようにしている。よく見るとタイヤが少しリアフェンダーから出てしまっているが、リアフェンダーに突起をつけることでドイツの法律をクリアしている。ベンツはここまでして空力にこだわっている。
テールランプにしても、よく見ると、横からくる風と上からくる風に棚を作って干渉しないようにして、後ろに渦を作らないようにしている。
他の車でここまで空力をやっているものはない。ベンツは空力の進化の教科書になっている。
ステアリングロックを解除してステアリングを操作しようとしても、全く動かない。
これはブッシュだとかステアリングラックだとかコラムに一つも遊びがない凄まじい精度で作られているから。部品を組み合わせたときの隙間が全くない。
だから車が手足のように動く。これがベンツの精度。
運転すると、車の前半分と後ろ半分の反応がぴったり同位相になる。どこにも遅れがない。
これをつまらないと言うか、完璧な剛性のバランスだと言うか、それは言うほうの勝手。
普通の人がアッと思ってブレーキ踏んでハンドルを切るときでも、ベンツはいざというときの最後の最後までフォローしてくれる。
しかも、フォローの仕方も怖くない。急ブレーキを踏んでも後ろのタイヤが全く浮かない。これが事故を起こすかどうかの最後の差になる。
ハンドルを切って急ブレーキを踏むと、普通の車だったら前のめりになって後ろのタイヤが浮く。しかし、ベンツはAクラスからSクラスまで、ぴたっと後ろのタイヤが付いてくる。これはニュルを走りこまないと絶対にできないこと。電子制御がついていても、そのコントロールが及ぶ限界レベルの桁が違う。
ベンツは、どんな状況でも4つのタイヤが地面ときちんとコンタクトしている。残念ながら、BMWは運転が楽しいが、前がペコペコしてしまう。そうすると、後ろの内輪が浮き上がってスコーンと前に行ってしまう。こういうところのスタビリティがベンツとBMWとでは世界が違う。
ベンツは雨のアウトバーンを250キロで走っても怖くない。
運転を面白くするなら、フロントを柔らかめにしてリアを重くすればいい。
しかし、これをすると前の動きの量が後ろの動きの量の倍、出てしまう。そうすると、前がピョンピョン動くので、目線の移動量も多くなってしまう。
ベンツは前と後ろの硬さのバランスを完璧にとっている。ということは、高速道路を長い時間走っても目線の移動がないから、3~4時間走ったときの疲労度が半減する。
ベンツは、運転の面白さのために過度な演出はしない。変なバランス崩しをやって、スポーティさを強調しない。だからこそ限界領域でスタビリティ(横滑り防止)があったり、長距離を乗っていても疲れない。これはまじめな思考で物を作らない限り絶対にできないこと。
ベンツは、アクセルを全開で踏んで急ハンドルを切ってブレーキを踏んでも、ピタッと止まる。全然怖くない。これが車の凄さ。これだから事故回避ができる。
ベンツについて、みんな乗り心地だとかハンドリングとか色々な話をするが、結論をスタビリティの限界安全に持ってきて、それをキープしてから初めて味付けの段階に入るのがベンツの凄さ。
普通の車は味付けで終わってしまって、スタビリティの限界安全までたどり着かない。「そうは言っても危ないから電子制御でもつけておこう」という仕事の仕方をしている。ベンツとは仕事の仕方が全く逆。
日常の足として使うのには、ベンツは究極だと思う。
職人の芸術品。精度が作り出す質感の世界がある。
BMWはどう見ても空力がよくない。デザインでスポーツ感を演出している。
BMWはデザインを優先してフロントタイヤを前に出しているので、空気を清流する部分がない。ポルシェですらアプローチをとるようになってきている。BMWがこの長さでやっている限り、永遠に空力は良くならない。
近くで見ると空力を考えていないと分かるが、離れて見るとなぜかスポーティに見えてしまうのがBMWのデザインの凄さ。
BMWはスタビリティの限界安全そのものが低い。合わせるのは楽だが、合わせても簡単にバランスが崩れてすぐに滑ってしまう。
ただ、バランスが崩れても懐が深いので、修正が楽。スタビリティの限界安全は高くないが、乗っていて扱いやすいし、全部のバランスがあっているから、普通の人が乗ればBMWはスポーティだと感じるのだろう。乗りやすいスポーティ。
BMWはスタビリティの限界安全が高いとか低いとかはどうでもよく、ただただ乗っていて楽しい。前が柔らかい分だけ車が敏感に反応する。敏感に反応するといっても、キュッキュではなくスッスという反応なので、やっぱり乗っていて楽しい。
ベンツには隙が全くないが、BMWには隙がある。隙がある分だけ自分で介入する運転の面白さがある。
BMWはドイツ車ではない。ベンツのように、ガチっとしてすごくいいとか、職人技のように隙がなく作っているとか、そういう世界観ではない。BMWには隙の面白さがあり、アルピナは隙の面白さが楽しさまで昇華している。
コメント
逆にわたしはEクラスに乗ったことが無い為、AMGとそれ以外の差はわかっていてもEとSの差はわかりません。
2022/05/16 14:18 by URL 編集
No title
さて、以前に、ドイツ車はマイナーチェンジ後が品質が良い、というお話がありました。これから買う場合、中古も含めて、Eクラスでお勧めの年式モデルがありましたら教えてください。
2022/05/17 03:54 by URL 編集
No title
>長年SクラスのAMGを乗り継いでますが十分ドライバーズカーとしても楽しめます
Sは、長さと幅が大変そうです。
>これから買う場合、中古も含めて、Eクラスでお勧めの年式モデルがありましたら教えてください。
現行Eワゴンは、2016年11月に発売され(フルモデルチェンジ)、2020年9月にマイナーチェンジされました。
したがって、本来であれば今が買い時のはずですが、昨今の半導体不足のせいでEクラスはE53AMGを除いてカタログ落ちしてしまっています。
中古車であれば、認定中古車は絶対条件であり、その中から走行距離が少なく、登録日が新しいものを選ぶべきですが、よさそうなものは売れてしまっています。
2022/05/17 13:03 by たわら男爵 URL 編集
No title
https://www.matsui.co.jp/campaign/detail/44.html
2022/05/17 22:01 by T URL 編集
No title
>松井証券の投資信託積立5%還元キャンペーンは参加しますか?
過去に積立購入したことがある人は対象外ですから、対象者は極めて限定されます。
私は投信工房を利用していましたので、参加できません。
>何を買うといいですか?
好きなものを買ってください。
早期解約するのであれば、たわら先進国株は買わないでほしいです。
2022/05/17 22:50 by たわら男爵 URL 編集