無分配投信の問題点

インデックスファンドに限らず、投資信託は原則として分配金を出します。
我々のたわら先進国株も、目論見書6頁で次のように記載し、分配金を出すことを前提としています。

年1回決算を行います。
●毎年10月12日に決算を行い、基準価額水準、市況動向等を勘案して分配金を決定します。
●将来の分配金の支払いおよびその金額について保証するものではありません。
●分配金額は、分配方針に基づいて委託会社が決定します。あらかじめ一定の分配をお約束するものではありません。分配金が支払われない場合もあります。


ここで「分配方針」が何かが気になりますが、目論見書16~17頁で説明されています。

収益分配方針
毎決算時に、原則として以下の方針に基づき収益分配を行います。
(1)収益分配額の範囲
経費控除後の配当等収益および売買益(評価益を含みます。)等の全額とします。
(2)分配対象額についての分配方針
委託会社が基準価額水準、市況動向等を考慮して、分配金額を決定します。ただし、分配対象額が少額の場合は分配を行わない場合があります。
(3)留保益の運用方針
留保益の運用については、特に制限を設けず、委託会社の判断に基づき、元本部分と同一の運用を行います。



このように、目論見書では、まるでETFのように全額分配が原則であることが明示されています。
しかし、たわら先進国株は2015年12月の新規設定から一度も分配金を出していません。

運用報告書5頁では、分配金を出さなかったことについて、次のように記載しています。

当期の収益分配金については運用実績等を勘案し、無分配とさせていただきました。なお、収益分配金に充てなかった利益は信託財産内に留保し、運用の基本方針に基づいて運用いたします。

目論見書や運用報告書でこのような記載をしているのは、なにもたわら先進国株だけではありません。
ニッセイ外国株もスリム先進国株も同じ記載をしています。ただし、スリム先進国株は次のように少し踏み込んだ記載をしています。

分配金額の決定にあたっては、信託財産の成長を優先し、原則として分配を抑制する方針とします。(基準価額水準や市況動向等により変更する場合があります。)

今回は、なぜ各社が分配を原則とした記載をしているのか、スリム先進国株の記載(原則として分配を抑制する方針)が危ない理由について説明します。






※3月21日20時00分から28日1時59分まで楽天市場の10店舗買い回りが開催されます。
過去記事(2021.3.5)のリンクを張っておきます。

●楽天市場でこれを買え
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-2052.html





新着記事通知用のツイッターアカウントはこちら。
https://twitter.com/tawaradanshaku

広告

インデックスファンドは低コストを売りにしています。
投資信託にかかる「コスト」は、信託報酬を含む運用コストのほかに税務コストがあります。

インデックスファンドが保有する個別株は、配当金を出します。

ETF(上場インデックスファンド)であれば、個別株から発生した配当金は、諸経費が差し引かれた後、その全額が分配金として顧客に交付されます。ファンド内に留保されることはありません。
このように、ETFの特徴は留保益がないということです。ファンドが得た利益は全て分配金の形で顧客に交付されるため、顧客が交付を受けた時点で配当所得課税(20.315%)がなされます。

ここで誰もが気づくわけです。
ETFが分配金を出さずにファンド内に留保され、留保益が元本と同じように運用されたとしたら、顧客は得をするのではないかと。

利益がファンド内に留保されず顧客に分配されたとしたら、前述したとおり配当所得課税がなされ、「利益×20.315%」が即時に源泉徴収されます。
これに対し、利益がファンド内に留保され元本と同じように運用することができるとしたならば、本来であれば即時に源泉徴収されていたはずの「利益×20.315%」の部分についての運用益を顧客が手にすることができます。
そして、72の法則によれば、毎年4%の運用益を上げることができれば、18年で運用額は2倍に増えます。このように、留保益を生み出し、それを運用する期間が長ければ長いほど、個別株の配当金に対する税務コストはゼロに近づくことになります。

無分配投信であれば、源泉徴収税の納税時期を将来の売却時まで繰り延べし、源泉徴収税の売却時までの運用益を顧客が手にすることが可能になるわけですが、各社が無分配方針を明言できない理由があります。

国際投信投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)は、2013年4月15日付けレポートで次のように述べています。

投信の無分配はいつまでも出来るものではないのだ。 日本版ISAや確定拠出年金(日本版401k)など税制上の優遇措置のある口座は別とすれば、特別口座や一般口座で購入する一般的な投信購入の場合、長期の無分配は税制上問題視されるからだ。
それでは、どの位まで無分配が認められるかと言うと、3~4年とされている。 1993年初めまでは3年までしか認められていなかったが、1992年に信託銀行の実績分配型合同運用金銭信託の無分配期間が株式投信より長期に認められたことから、投資信託協会が政府に無分配期間の延長を求め、1993年3月に4年間無分配に出来る長期保有型株式投資信託「LLF」(ロング・ライフ・ファンド)が認められたのだ。 これは、信託期間7年の単位型投信で、信託財産留保金を1年未満400円、2年未満300円、3年未満200円と既存商品に比べて高く設定、長期保有を促進した証券会社・投信会社商品である。 そして、その当時の新聞は「LLFに4年間の無分配期間が認められたことによって、投信委託会社にとっては安定した運用を行えるメリットがある。また、投資家にとっては分配金に対する20%の源泉徴収課税が繰り延べられることになる。」(1993年2月6日付日刊工業新聞)と報じていた。 こうした事から、税制上問題視されない無分配は3~4年とされている。

https://www.am.mufg.jp/text/130415.pdf


このように、運用会社サイドとしては「追加型投資信託で無分配はまずい」と認識しているため、目論見書で無分配を原則とするわけにはいかず、あたかも毎年分配されることが当然であるかのような記載をしているということになります。

※「追加型投資信託」
新規設定後も購入することができるもの。
これに対し、単位型投信は、新規設定前の募集期間しか買えない。
上記レポートによると、無分配は単位型投信に限定され、かつ5年目からは分配しなければならないことになる。


それにしても、このようなレポートを出して「無分配投信はヤバい」と考えていた三菱UFJ国際投信が、スリムシリーズの目論見書に「原則として分配を抑制する方針」と明記するとは、この数年間で何が起こったのか気になるところです。

ただ、私は、三菱UFJ国際投信が金融庁の力を過大視して調子に乗ってしまったように思えてなりません。
しかし、金融庁は中央官庁の序列では下の下です。発言力はほぼないと考えるべきです。
わが国を代表するインデックスファンドシリーズになったスリムシリーズがこのようなことを目論見書にあからさまに書いてしまうと、序列最高位の財務省及び国税庁の逆鱗に触れてしまうのではないかと心配しています。

広告

コメント

No title

以前ある直販系の運用責任者に「分配金をいつまでも出さないと問題視されるのでは?」と聞いたことがありました.
冗談も一部あるでしょうが,「明確に何年分配しなくてもいいかという前例はないものの,澤上さんのところが怒られたら考える」と仰っていました.
金融庁の位置付けが中央省庁ではそこまで高くないことを考えると,あまりはっきりと分配しないと書くのは得策ではなさそうですよね

スリム以外多くの低コストインデックス投信がそのような目論見書の内容であるのに、国税庁に目をつけられることなくこれまで分配金を出さないでいられた理由、というかどのようなロジックで分配金を出していないのか気になります。

No title

コメントありがとうございます。

>「明確に何年分配しなくてもいいかという前例はないものの,澤上さんのところが怒られたら考える」

さわかみファンドは一昔前の代表的なファンドでしたが、今はスリムシリーズが代表的なファンドになりました。

そのスリムシリーズが無分配を明言するのは非常にまずいと思います。
国税は一罰百戒が大好きですので、狙い撃ちにされるリスクがあるからです。

>どのようなロジックで分配金を出していないのか

決算の直前までは全額分配するつもりだったものの、決算の直前に再度検討したところ、諸般の事情を考慮して今回はやむを得ず分配をしないという苦渋の決断をしたわけです。
これがたまたま続いているだけです。
非公開コメント

広告

プロフィール

たわら男爵

Author:たわら男爵
Painter:ますい画伯
http://www.masuitousi.com/

ブログ開始日 2016年3月1日

●「たわら先進国株」と「VT」を半分ずつ保有中。
●つみたてNISA(SBI証券)は「たわら先進国株」を年初一括購入中。
●クレジットカードによる投信積立サービスを利用し、SBI証券・楽天証券・auカブコム証券で「たわら先進国株」を毎月5万円ずつ購入中。

●無リスク資産は、個人向け国債変動10とauじぶん銀行(金利0.2%)。

パソコン版右端の「ブログ記事検索」と「カテゴリ」が便利です。

●「誰でもできる超簡単ほったらかし投資」(カテゴリ「【公開】誰でもできる究極の投資」)はこのブログの全エッセンスを1記事に凝縮したものです。
●カテゴリ「この投資信託がすごい」では、ベストバイファンドの具体名を明示しています。
●カテゴリ「インデックスファンドの基礎知識」を読めば、誰でも簡単に投資信託の必須知識を得ることができます。

新着記事通知用のツイッターアカウントはこちら。
https://twitter.com/tawaradanshaku

インデックス投資家必読の書

ブログ記事検索

他の投信ブログはこちら

管理