可能性としては、
(1)課税されない
(2)一時所得となる
(3)雑所得ないし事業所得となる
の3種類です。
この3種類の可能性のうち、(1)から(3)に行くにつれ、我々にとっては不利益になります。
(1)が最も有利(税金ゼロ)なのは明らかですが、経費を観念できないポイントの場合には、(2)の一時所得のほうが(3)の雑所得や事業所得よりは得をします。
なぜなら、一時所得は、50万円の特別控除額があることから、50万円までは課税されないからです。また、50万円を超えた部分についても、課税対象はその2分の1となります。
例1:一時所得が50万円だったら、課税される所得はゼロ。
例2:一時所得が60万円だったら、課税される所得は5万円(この5万円は、給与所得や事業所得などと合算されて総合課税されます)。
※経費を観念できる所得の場合には、一時所得より雑所得のほうが有利になります。
競馬や競輪の払戻金について、雑所得にあたると馬券代や車券代が経費となることから、課税庁は一時所得であるとしてきましたが、最高裁判決を受けて法令解釈通達が変更され、雑所得にあたるケースが明示されました。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/08.htmポイントに対する課税関係について、国税庁が公開している税務大学校の論考があります。
●要約版
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/78/04/index.htm●全文
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/78/04/01.pdfこれは税務大学校(税務職員の実務教育機関)の教官の論考であって課税庁の見解ではありません。
しかし、重要なのは、これが国税庁の公式サイトで公表されているということです。つまり、税務署長と見解の相違が発生したとき、この論考が現世的なご利益を発揮するお守りになるわけですね。
さて、上記論考ですが、ポイントの法的性質について、2種類の考え方を示しています。
(1)無償で受け取ることができる景品(停止条件付き贈与契約)
(2)商品の値引き(値引き相当額のポイントの売買契約)
上記論考の結論は、
(1)ポイントの法的性質が停止条件付き贈与契約ならば一時所得
(2)ポイントの法的性質が値引き相当額のポイントの売買契約ならば非課税
(3)対価性ないし事業性のある取引によってポイントを取得したときは雑所得ないし事業所得
というものです。
※停止条件
停止条件とは、将来一定の条件が発生したときに契約の効力が発生するという法的概念です。
ポイントは、顧客が利用するまでは発行体が没収することができるため、「顧客の利用意思の表明」という停止条件が実現すると、その瞬間にポイントの利用権が顧客に移転してポイントは費消され、発行体は費消後にはさかのぼってポイントを没収することができなくなります。
※一時所得
一時所得になる所得については、法令解釈通達で例示列挙されています。
法令解釈通達(所得税)34-1(3)は、「法人からの贈与により取得する金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。)」と規定しており、上記論考が「贈与」に異様にこだわる理由も、一時所得のこの要件に該当させたかったからと推測されます。
※対価性のある取引
アンケートに答えてポイントをもらう。
事業性があるとはいえないアフィリエイト報酬について、現金ではなくポイントでもらう。
※事業性のある取引
事業性のあるアフィリエイト報酬について、現金ではなくポイントでもらう。
さて、そうすると、問題は、ポイントは景品かどうかという法的性質論となります。
上記論考は、大審院判決を引用しています(戦前は、地方裁判所、控訴院、大審院の三審制でした)。
大審院昭和11年7月18日判決は、酒と酒粕を一緒に販売し、代金は酒の代金のみとしたケース(少し前まで酒の値引き販売は許されていませんでした)について、次のとおり、酒粕は酒の景品であると判断しました。
販売当時ニ於ケル当該商品ノ販売広告宣伝附加品包装ノ方法殊ニ附加品ガ売品ナリヤ将タ景品ナリヤニ関スル顧客ノ主観等其ノ他諸般ノ状況ヲ参酌考慮シテ之 ヲ判定セザルベカラズ
このように、大審院は、付加品が売品なのか景品なのかについては、
(1)顧客の主観
(2)その他諸般の事情
から判定すべきであると判断しました。
これをポイントにあてはめると、ネットショッピングをする顧客は、一般に、複数のショッピングサイトを閲覧し、還元されるポイントを考慮した「ポイント値引き後の金額」を比較し、それを重要な判断要素として、当該商品をどのショッピングサイトで購入するかを意思決定します。
また、実店舗であっても、例えば、家電最大手のヤマダ電機は、「ポイント値引き」を全面的に強調し、他店販売価格に対抗すると宣言しています。
そうすると、顧客の主観はまさに「ポイント値引き」であって、ポイント還元率が低ければその店では買わないわけですから、単なる景品ではないといえます。
上記論考は、ポイントを課税される所得にしたいことから、ポイントは景品であると結論づけています。
上記論考がポイントを景品とする根拠は、
(1)ポイントプログラムに関する契約締結の有無に関わらず、元々の売買契約等は全く影響を受けることなく成立すること
(2)ポイントのみで販売されることがないこと
(3)多くの一般顧客の観念としても、ポイントは一定の購買行動等に伴って無償にて得られるものであること
という3点です。
しかし、一般的な顧客は、ポイント値引き後の金額を前提として当該商品をどの店で購入するかを決めていますので、いくらのポイントが還元されるかは売買契約を締結するかどうかに際して重要な判断要素であるというべきです。
また、ポイント還元率が30%であると表示された商品を購入したところ、実際に付与されたポイントは10%であったとき、実質的な売値に齟齬があったわけですから、元々の売買契約は成立していないというべきですし、仮に成立したとしても解消されてしかるべきです。
そして、(2)についてですが、楽天ポイントなどの一部のポイントはコンビニ等で販売されています。
さらに、(3)についてですが、多くの一般顧客は、ポイントはおまけではなく、現金代用品と考えています。
現在、ほとんどのポイントは他のポイントに等価交換することができますし、nanacoやSuica等にチャージすることもできます。
ネットだけではなく、ポイントカードを利用すれば、実店舗(加盟店)でポイント払いをすることもできます。これは、Tポイント、楽天ポイント、ポンタポイントの全てで対応しています。
また、楽天ポイントなどは、クレジットカードの決済代金や証券口座の
投資信託の購入代金にポイントを充当することもできますし、ペイアプリを利用して支払方法をポイント払いに設定しておけば、極めて多くの実店舗においてショッピング代金を直接ポイント払いすることもできます。
このように、上記論考が依拠するポイントを景品とする考え方は、まさに酒に酒粕を景品として付けるがごときカビの生えた前時代的な古い考え方であって、フィンティック時代の到来によって、ポイントはますます現金代用品としての価値を高めていくことになるでしょう。
そうすると、ポイントには現金代用品としての独立した経済的価値がありますから、単なる景品であるとの考え方は、経済実態に反するばかりか(上記論考も、経済実態で判断すれば、ポイント値引きとして課税されない結論になると明言しています)、法的性質論としても不合理であるといえるでしょう。
そもそも、法律は、「法規範」と呼ばれるように、社会のルールに強制力を持たせたものです。
そうだとするならば、経済実態と法解釈が矛盾対立するときは、経済実態こそが社会のルールですから、法解釈も現実の経済実態に沿う形で修正されるべきです。
このような理由で、私は、ショッピングによってポイントを取得したとしても、ポイントには一切課税されないと考えます。
コメント
こんにちは、久々に投稿します。
ポイントについての記事、楽しく読ませていただきました。
さて、全然関係のない質問で恐縮なのですが、以下のブログ記事を読み、男爵様にご意見を伺いたく投稿しました。
https://www.burabura-investment.net/investment/2693
投資対象や月々引き出す金額、一括投資するかしないかなど、男爵様とはいろいろと前提条件の違いはあるとは思いますが、長期投資で生活の糧を見込むものとしては、少し怖くなる試算ではあります。
ただ、なんというか、この試算に対する違和感のようなものがどうしてもあるので(具体的にはうまく指摘できないのですが)、もしよろしければ、ぜひ上記ブログ記事に対する男爵様のご意見を伺えれば幸いです。
もし5000万円での長期投資、しかも米国一国対象とはいえ、インデックス投資で破綻するとなると、ほとんどのセミリタイアを試みる人は破綻するのではないかと思うのですが。。。
かと言って、元金が1億円になるまで働いてから退職、となると、安全かもしれませんが、たいていの人にとっては、もはやセミリタイアやアーリーリタイアとは言えない年齢での労働者脱却ということになりますしね。
ぜひご意見をお待ちしております。
2018/10/12 15:47 by たぬきぬこ URL 編集
どれだけ絞り上げれば気が済むのでしょうね。
2018/10/12 16:53 by 深 URL 編集
No title
>もし5000万円での長期投資、しかも米国一国対象とはいえ、インデックス投資で破綻するとなると、ほとんどのセミリタイアを試みる人は破綻するのではないかと思うのですが
私は5000万円でリタイアしようとは思いません。
実家で一人暮らしならばなんとかなるかもしれませんが、妻子を抱えて進学までさせてとなると到底足りません。
なお、アマゾンプライム会員ならば無料で見ることができる本の中にヤマゲン先生の人生相談本があります。
その中で「人生設計の基本公式」が紹介されていますので、よろしければ参考にしてみてください。
>ポイントにまで課税されるとなるとかなり悪辣であざとい国家ですね。
ショッピングポイントはポイント値引きそのものなのに、あの論考はそれに対する課税を検討しています。
ひどいですね。
2018/10/13 10:05 by たわら男爵 URL 編集
No title
2018/10/15 02:24 by 雪ん子 URL 編集
No title
>消費税増税時に食品などは2%分をポイント還元するそうですが、これにも課税することを検討するのでしょうかね
これは消費税増税分の還付ですから、一時所得になるでしょうね。
中小企業での購入分ですから、ポイント還元の金額が多くなりそうです。
もっとも、2%相当額としても、購入額が1000万円にならないと一時所得の控除額である50万円に達しませんので、実際に確定申告が必要な人は限定されると思われます。
私が気になっているのは、ヤナセ(各地の地名をとって、「●●ヤナセ㈱」という別々の法人です)が中小企業になるかどうかです。
車の税金が軽減され、更に中小企業ポイント還元の対象になると非常にうまいのですが、車は対象外とかそんなことになりそうです。
2018/10/15 07:41 by たわら男爵 URL 編集